しきおりつづり

糸を組み合わせて布を作るように、文字を組み合わせて文を作る。しきおりつづり(織織綴)と申します。

夫婦の形はいろいろ 『小人の巣』「アリとキリギリス」

 

 しきおりつづりの織(しき)です。

 前回の記事の続きを綴ります。

 

shikiori.hatenablog.jp

 

 今回の記事でも、「死」そのものや、「しにたがり」について触れています。

 不快になる予感がする方、苦手な方、マイナスな感情に引っ張られてしまう方には、ブラウザバック推奨します。

 

 

 


 

 

 

 目次

 

 1.書籍紹介

 2.第2話 「アリとキリギリス」

  2-1.登場人物

  2-2.夫婦の人生設計

  2-3.ふたりの問答とラストについて

 3.おわりに

 

 

 ※ネタバレあります。

 

 

書籍紹介

 

 当然前回と同じではありますが、一応。

 

タイトル:小人の巣

作家名:白河三兎

出版社:双葉社

出版日:2015年10月23日

本の形態:四六判

ISBN:9784575239249

Cコード:C0093

 

 小人の巣 白河 三兎(著) - 双葉社 | 版元ドットコム

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784575239249

 

 

 

第2話 「アリとキリギリス」

 

 個人的に、この話が一番好きだと感じました。 

 

登場人物

 

 メインメンバーは3人。

 主人公の「深山(みやま)」、その妻の「友香(ともか)」、主人公と同期の「織田(おだ)」。

 

 第1話でメインとなっていた、「シャーマン」と「沙菜」も出てきます。

 

 

夫婦の人生設計

 

 今回の物語で重要なのは、深山夫婦の人生設計の内容です。

 

『十年間は今のまま働いて節約に勤しみ、十五年間無職でも悠々自適に暮らせる貯蓄をする。そして無一文になったら心中する』

 

  数ヵ月後さえあやふやで、生きていける自信がない私は、まともな人生設計がありません。「なるべく早くしねたらいいな」というくらい。

 深山夫婦ような人生だったらいいかもしれない、と感じました。

 でも私だったら、10年15年と生きるのは耐えられない……気がします。この約束があったら、支えになるのでしょうか……。

 

 いや。自分勝手な考えに、他人を巻き込むのは、申し訳ないです。

 そう思ってしまう気がします。

 

 生きたくない者同士ならばいいかもしれないけれど。

 人生に絶望している人ならば。

 

 でも、よくこの約束をお互いに信じることができたなぁとびっくりします。

 人の心って変わっていってしまうものですから。

 こんな長い期間この考えに付き合ってくれるなんて、信じられないです。

 

 

ふたりの問答とラストについて

 

 このやりとり、とても良い。

 きっと作者さんは何度もなんども頭の中で戦っていたのでしょう。もしくは、実際に話した相手がいたかもしれません。

 しにたがりの言葉が、本気で「死」を考えたことのある人のものでした。

 

 ……だから、期待していたのですけれど。

 

 生きるにしてもしぬにしても、なんらかのこの人なりの「答え」を出してくれるのではないかと、思っていたのですが。

 

 残念ながらこの作品はそのような内容ではありませんでした。

 

 どうして……。何故書ききってくれなかったのですか。そこまで向き合っておいて。なぜ。

 一気に興ざめ。

 

 しにたい人間が、しかも綿密に計画を練ってきたタイプの人間が、簡単に考えを変えると思います?

 しにたくないと考えるようになってしまうなんて恐ろしいじゃないですか。

 望まぬ時に与えられるなんて嫌じゃないですか。

 

自分でタイムリミットを設ける

 

 さいこうじゃないですか。この考え。

 

人は事前にゴールを認識することができない。

 だから人は不安を抱えて生きていくことになる。

(87頁)

 

 終わりが見えないから絶望してしまうのです。終わりを自分でつくってしまうのは、さいこうだと、思うのです。

 

人生には自分でコントロールできないことがある。そんな理不尽な世の中に子供を運任せに放り出すことを可哀想と思わないのか?

(75頁) 

 

 ちょっと違うけれど、自分の子供はいらない、という考えは同じです。

 自分がここから消えたいと望んでいるのに、無責任にこんな世の中に「我が子」を産み落とすなんて、残酷です。私には無理。無責任にケッコンシロ・コドモヲウメ、なんて言わないでほしいです。

 

「お金がない人間はペットを飼うな」という意見がありますけれど、子供だってそうじゃないですか。きちんと育てる自信がないならば、簡単に、こちらに呼び寄せるなんて可哀想なことはできません。

 

 まだ見ぬ、そして一生見ないかもしれないけれど、

 これが私の「我が子」への愛情です。

 

異常なのは、この社会だ。年に十万人以上も自殺者が出ているんだからな

 

 ネット上で、「海外では『しにたい』と言ったらとてもびっくりされる」という話を聞きますけれど、正直なところ半信半疑です。しにたくならないなんて羨ましいですね。どうしてなのでしょう。

 日本では、そろそろ、「しにたい」くらいじゃ動じない人が増えてきましたよね。

 

 極論を言えば、何もいらなかった。

(86頁)

 

 もし自分がしんだとして、棺桶に入れてほしいくらい必要な物って何だろう、と考えたことがあるのです。少しの本と、いくつかのペンギンのぬいぐるみ。それだけでいい気がしました。

 嗚呼、他の物ってじつはいらないんだなぁ……と思いました。

 けれど不思議なことに、生きていくつもりで部屋を見渡すと、なかなか、物を捨てられないのです。生きるって、執着することなのかもしれませんね。

 

 

 友香さんの気持ちが最後に語られます。

 彼女にも理由があった。

 でも私には、その理由はいらないと思ってしまいました。「普通の人」には理解してもらえないかもしれないですし、醜いですけれど、でも、純粋に、しにたがりでもいいじゃないですか。

 

 何で。

 どうしてそこまで書いていて、逃げてしまうのですか。

 

 と、作者さんに尋ねたいです。

 

 

おわりに

 

 第3話以降も少し読んだのですが、途中で読むのをやめました。 どれもラストは同じなのだろうな、と思ってしまったので。

 

 何故書いてくれないのですか。

 

 世間の目を気にしているのですか?

 編集部に止められたのですか?

 生きたいと考えるようになったのですか?

 

 どうしてですか、作者さん。

 悲しいです。

 

 結局、“みんなが言っていることと一緒”じゃないですか。

 しにたい気持ちを理解できるはずなのに、否定しているじゃないですか。

 

 一冊丸々使ってもっと一緒に悩んで苦しんである種の答えや間違いをして何らかのラストを作り上げてほしかったです。それは、望んでは、いけないことですか……?

 しにたい気持ちは、肯定してもらえないのですか。

 

 

 以前誰かに言ったことなのですけれど。

 しにたがりといきたがりは、宗教が違うようなものだと思います。だから、一方の意見を押し付けてはいけないし、理解しあえないところがあっても仕方ないのだと。

 そう思うしかない、と、私は考えました。

 

 

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白河三兎『小人の巣』